甘草は中医生薬で様々な方剤に使われているものです。2000年以上前から生薬として使用されている記述があります。
効能は以下の5つ挙げられます。
①補脾益気:脾胃虚弱症に用いられる
②潤肺止咳:肺燥を潤すことにより咳を止める
③解毒:熱毒の咽喉腫痛、食物・薬物の中毒症に用いられる
④緩急止痛:痙攣・痛み、脾胃虚寒による腹痛を緩やかに取る
⑤緩和薬性:薬剤の峻激な性質を緩和させる
この5つの効能の中で⑤緩和薬性は方剤でよく使われているようです。
中医古事でも 緩和薬性についてエピソードを交えた言い伝えが残っています。
今回はそちらを紹介します。
甘草は国老の役割
中国の南北朝時代、陶弘景という医薬家で有名な道士(道教のお坊さん)がいました。
陶弘景は学業にも優れ朝廷の政治にも関っていました。その傍ら医薬で病人を助けていた人物です。
彼は様々な症状の病人を治療していきましたが、その薬には甘草が使われることが少なくありませんでした。
ある時、患者が「副薬に何故甘草を使うのですか?甘草は万病を治すことができるのでしょうか?」と陶弘景 に聞きました。
陶弘景は
「神膿本草経を長年研究してきたが、甘草は補脾益気、緩急止痛効果があって良い薬です。中でも緩和薬性効果が他の薬物と異なります。薬物の効能を促進・コントロールする等調和させることができるので甘草を使用することで方剤の良い効果を発揮させることが出来ます。甘草は朝廷で言うと国老に例えることができますよ。」
と患者に説明をしました。
「国老」とは皇帝の奥さん皇后の父にあたります。この国老は政治や人の調和を図ることが役割です。
この陶弘景のエピソードがあり現在でも甘草は調和の役割であり・中医薬の国老と称されています。
辟穀薬に使われる甘草
古代中国。張太玄という人物がいました。その家族や数十人の弟子たちは林廬山にこもって数十年もの間、石を食べて暮らしていましたが、みんな健康でした。
それを不思議に思ったある男が、彼に弟子入りをして食事方法を学びました。
その方法は甘草や山人参などの十種類ばかりの薬草をとり、それを干して粉薬とし、それをひとさじのんでから雀の卵ぐらいの大きさの石を十二個呑むというのだった。こうすると、百日間はなにも食べないでも、すこしも腹がへらなかった。
窪徳忠 著「道教百話」より引用
辟穀薬とは引石散という薬と白石を水に入れて煮立ててつくる薬です。
辟穀薬のエピソードは摩訶不思議な話ですが甘草の効果がいかに優れていて、石の成分の調和(?)効果もあるものだと伝えているのではないかと解釈しています。
このエピソードは仙人の昔話です。かつて中国の山で暮らしていた仙人は独自の薬の製法を持っていて不老不死であった、という話は道教の昔話でよく出てきます。
小耳にはさみましたが、今でも中国の山奥には仙人が住んでいるといいますが真相はどうなのでしょうね。
◆教えてくれた人◆
黄蕊(rui)中薬師
中医薬剤師。広東省中医院中薬房 勤務。
広州中医薬大学 中医薬学部卒業。
外国人に中国語・広東語を教えていた経歴があり、中医を通して国際的な交流をしてくれる優しい中医薬剤師さんです。
生薬の解説、生薬を使った薬膳を得意としています。
↓ 辟穀薬のエピソードはこちらの本から引用させていただきました。道教医術が中医と繋がっていて面白い内容でした。