中医解説

上火を中医学で徹底分析。発生原因と予防法。

上火(shang4 huo3 シャンフォオ)とは中国に住んでいるとよく聞く言葉です。

中医学の用語で身体の状態を表していて、字の通り身体の内側にある火が上に昇ってしまっている状態を表しています。

私が中国に生活していた時は中医を学んでいる学生・中医専門職の方がよく夏の暑い日に動いて身体が熱くなった時に「上火だわ~」「上火だから休ませて」「上火だから水をちょうだい」なんてよく話していました。

中国人の医療通訳に「上火ってどう日本語訳してるの?」と聞いたことがあります。

「上に火が上るから“のぼせ”でしょ」とのことで、中医診療所に来てくれていた日本人のお客様には「のぼせ状態」と説明がされていました。

しかし、調べてみると“のぼせ”状態と1言では言えない現象が身体の中では起こってしまっているのです。

身体の中の火の原因そして火が上にのぼるとどのような事・病気に通じてしまうのか?

身体の内に火が生じるのは現代のストレス社会の心の在り方も関わってきていますので、今回は“上火”について解説していきます。

上火に伴って生じる症状

上火の火は熱気が当てはまります。

身体の中に熱が生じて上に上がることで身体の陰陽バランスの失調が生じて様々な症状を引き起こします。

具体的には、内熱症状とも言われ、眼の白い部分が紅くなる・口乾・ニキビ・咽喉痛・頭痛・大便が硬いなどといった乾燥と熱が伴う症状が見られます。

上火は病気という意味ではなく健康の範囲内でこのような症状が起こっている、という意味で使われます。

しかし、上火がひどくなってしまうと鼻血・歯痛・胃潰瘍・失眠といった症状に発展してしまうのも事実です。

ではなぜ根本的な原因である火が身体の内側に発生するのか?

次の章で詳しく見ていきますが、解説は陰陽五行・中医学で解説してあるため専門性の高い解説となってしまいました…。ご了承下さい。

身体の中の火

中医学の整体観念では人の身体の中には自然界同様、陰陽五行の循環の働きが起こって生命活動がなされているとされています。

今回、火にスポットを当てていきます。

もちろん、も身体の中に存在していて、このが無ければ人は生命活動が停止してしまう程重要なものです。

陰陽五行では火生土で火は土を生じますが、水に対しては水克火で克であり水で克せない範囲の身体の水分を消耗させる作用があります。

しかし、身体の中のが完全に無くなってしまうことはを表します。

そのため正常な範囲内で火が働いていることは身体の陰陽五行の循環で非常に重要なことなのです。

体温が正常に保たれているのもこのの働きです。

しかし、この生命の火が何らかの原因で大きくなってしまうと不調をきたしてしまいます。

は熱ですので多すぎる火は、皮膚に紅くしたり・腫れさせたり・熱が出たり・痛みが出る・精神面には焦りといった感情を生じさせてしまいます。

この身体に害を及ぼしてしまう多すぎる火は“火邪”と言われます。

火邪の種類

この身体に悪い影響を及ぼす火邪は種類が大きく2つに分けられています。

実火虚火です。

  • 実火:陽気が亢進した状態で火が実証となったもの。
  • 虚火:体の中の陰が少なくなり、陽気を抑えられなくなって陽気が亢進してしまった火のこと。

どちらも身体の中の陽が大きくなってしまい、陰が不足になってしまっている為、正常な陰陽バランスで無いことが分かります。

ここで身体の中のを語る上で、中国・元の時代の名医“朱丹溪”という方の「相火理論」について簡単に紹介させていただきます。

朱丹溪

人の身体の中の火について「相火理論」は論じているのですが“病気が発生する過程にて陰精は極めて損失しやすい”と論じられています。

その原因は病気発症の過程では、多すぎる火が陰精を損失することが挙げられます。

この火の発生について、朱丹溪は度を越した情志(感情)・色欲、過度の飲食などが容易に臓腑の火を強くしてしまうと指摘しています。

このような要因で身体の内側で発生した火は、陰を傷つけ・消耗させ、元気をも損なって病にいたる、と病気の発症について語られています。

火邪の発生は気温が熱いといった外の原因もありますが、大部分は身体の内側の部分が関わっています。

外の外感要因に関しては夏に気温が高い為、水分が足りなくなり夏バテの状態を指します。

蒸し暑い環境下に長くいて体温が上がってしまい、夏バテ症状をきたしてしまうのも外感火邪の典型的な症状です。

それに対して身体の内側から生じる火熱は現代人のストレス・夜更かし・辛い刺激物の食べ過ぎなどが原因で身体の内側の火を発生させてしまいます。

ここで言うストレスは、人間関係のイライラ・怒り、仕事の焦りといった火に関わる情志感情が関わってきています。

この身体の中で発生して多くなってしまった火は“火邪”となり上記の通り身体の陰陽失調を引き起こしてしまうのです。

中医では人体は自然界の原則で維持されており、心身が正常な状態は陰陽が平衡な時です。

しかし、身体の内面から火が多く生じてしまうと虚実のバランスも崩れ、身体が容易に陰虚陽盛なってしまいます。

そうなってしまうと心煩・倦怠感をはじめ陰液が傷つき乾燥・熱の身体の表現である“上火”が出てしまいます。

中医治療では“上火”となったら人体の陰陽平衡を整え、滋陰降火を方針として治療にあたり身体の状態を正常に戻していく対応が取られます。

上火予防の養生

では“上火”を防ぐために養生では何が必要でしょうか?

身体の中の火の発生については前述の通りですので、予防には身体の中の火の発生を防げば良いのです。

  • 夏に夏バテにならないように環境を含めた温度管理をする
  • ストレスからイライラ・焦燥感を生じさせないように精神・心を守る
  • 度の過ぎた情志(感情)・色欲を抑えて過ごす

予防にはこれらのことが挙げられます。

また、身体が火照りやすい人は普段から辛い刺激物を食べ過ぎない、ネギ・生姜・ニラ類を摂り過ぎないことも1つの養生習慣です。

これから春となり、自然界の陽気も増えて気温がどんどん上がっていきます。

春に気温が上がってくると中焦の肝の気が活発となり、中焦の気が上に上がっていく傾向にあります。

春に気温が暖かくなってくると頭痛を感じる方がいますが、中焦の熱の気が上に上がって頭痛を引き起こしている方が多いです。

この状態も“上火”に含まれるものです。

上火を防ぐためにも身体の中の火を余計に産出しないように日常の生活習慣を整えていくことが大事です。

解説でご理解いただけたかと思いますが、“上火”は皆さんが普段気づかずに、何か不調だな?と感じていた身体に生じていた身体の現象です。

これから温かい季節を迎える上で“上火”予防意識もどうかしてみて下さい。

参考文献:

常学辉 编著 「《黄帝内経》全解」

慈艳丽 编著 「九种体质养生全书」

ABOUT ME
中医セラピスト・伊藤
中医セラピスト・伊藤
作業療法士として脳外科のリハビリテーションに携わった後、中国に渡り中西医結合医療現場にて渡航医療のリハビリテーションに携わってきました。この経験をきっかけに中医科に興味を持ち、 広州市の邦里国際医療団に所属。中医師助手として老中医師から中医基礎・臨床を教わってきました。 5年間中国で経験を積ませてもらい、現在は栃木県宇都宮市で中医関連の仕事をしています。 本場中国で教わってきた脈診、陰陽五行理論を使った経絡治療を得意としています。 ブログは中国でお世話になった方々の支援を得ながら書かせていただいています。