中国で中医基礎関連の書籍を読むと、必ず冒頭部分に宇宙の起源と万物の誕生が書かれています。
気、そして陰陽が関わりあって生命は誕生している、といった内容ですが中国で勉強していた当時は重要性を感じず飛ばして読んでいました。
日本の中医系の本を見ると同じように宇宙の起源まで詳しく書かれている中医学書はあまり見かけません。
しかしある時、師である李中医師にこのような指摘を受けました。
「人間の生命の誕生が分からないと、中医の理解はできないよ」
やはり中医医学書には宇宙・万物の起源が冒頭に書かれているだけあって、基礎中の基礎のようです。
今回は自然界・万物の誕生というなんとも広義なテーマですが、私の分かる範囲で書いていきたいと思います。
気の発生から万物は生まれる
自然界の気は陰と陽に分かれます。
天地でいうと天が陽。地が陰です。
この陰陽の気が休むことなく、陰陽の気は交わりながら自然界では動いています。
天の気は下に降り、地の気は上に昇がる。
この動きを中医学では“陰昇陽降”と言います。
五行とはこの天と地の気の運動変化から生まれたものです。
陰陽の二気が休まず混ざり合って、“風・熱・湿・燥・寒”の五気が生まれました。
この五気が“木・火・土・金・水”の五行です。
この通り、気それ自体が陰陽に分かれて五行の気を生み出して陰陽の気は上がる・下がる運動をして混ざり合います。
この様子を表したのが太極図ですね。
古代中国の人々はこれを宇宙誕生・万物誕生の気の動き、と捉えていたようです。
宇宙・自然界の生命誕生の法則は、
気が発生する
↓
気が陰陽に分かれる
↓
陰陽の気が上下に交わる動きから五行が生まれる
↓
万物が生まれる
という流れなのです。
中国語記載になりますが、図に表すとこのようになります。
生命の誕生には陰陽の気の動きが重要となりますが、混ざり合う動きは“調和”と表現されます。
“調和“の動きは、陰陽の気が半半でバランスが取れた状態です。
このバランスの良い“調和”状態は、穏やかな“静”の状態でないと万物は生まれない・発展する変化に入れないと言われています。
余談ではありますが、中医養生では“静”というのは人を成長させるのに最も重要な要素だと言われています。
例えば、勉強・仕事ばかり進んでいても立ち止まって振り返らなければ上手くいかないことが当てはまるのではないかと思います。
“静”と“動”の絶妙なバランスは生命は成長・発展する原則なのです。
人体の気の動き
では、この気の流れですが中医学では“気機”と言われます。
気の運動は多様ですが昇・降、出・入、集・散の動きをして陰陽の平衡を保っていきます。
人の呼吸の動きで見ると分かりやすいのですが、人は自然界の清気を取り入れ、濁気を吐き出す働きをします。
このような呼吸の働きで気の出・入そして身体の内側で気の昇・降の動きが生じています。
また、集・散に関しては、気が集まることで万物が形を成し、気が散ることで虚無となると言います。
古文書には気が集まって流れることは生であり、気が散って無くなってしまうことは死だと言われます。
これが人体の中で起こっている気の動きです。
人の生命活動に欠かせない気
人体内ではエネルギーの生産を行っています。
これは一般的には新陳代謝と言われますが、中医学では“気化”と呼ばれ生命の基本的な動きを表します。
例えば、心臓の拍動、肺の呼吸、気血の運行、飲食物の消化・エネルギー変換、老廃物の排出などです。
ちなみに私たちの身体は神経に電位が走っていることで動いたり、考えたりすることができます。
この身体を動かす神経伝達の電気は中医だと“気”だと言われています。
まとめ
中医学では自然界、そして人はこのような気の動きで生命が誕生し、生命活動をしていると言われています。
中国の中医の教科書では今回の話から発展すると陰陽五行がどの臓器に属して、どのような相生・相克の流れとなっているかの説明になります。
今回は気の発生と万物の誕生まで書かせていただきましたが、この基礎は人の身体を見るのに非常に重要になってくるものです。
と、言うのは私達現代人は気虚が多く、気虚により様々な病気が生じていることも事実なのです。
虚無が生じてしまう原因には気が“散”じることが挙げられます。
日本語にもあります様に、気を使う、気を配るといった行動が気を“散”らすことに繋がって虚無になっているのではないかと思っています。
特に日本人は人間関係や仕事に気を使い過ぎて“気虚”になっている方が多いように感じます。
気虚は疲労を誘発するだけでなく、邪が身体・心に入る隙を与えます。
もちろん、人の精神状態にも影響を与えます。
気が散る、集中できない、頑張れない、悩みすぎてしまう、混乱して怒りっぽくなってしまう、など影響は多岐に渡ります。
また、最近増えてきている女性の不妊症、そして子供の発達障害も気虚が関わってきています。
この点につきましては、中国の中医業界でも現在警笛を鳴らされています。
後日、この点につきましても詳しく記事を書きたいと思っています。
引用・参考文献:严灿 著 「明明白白 学中医① 医道医理篇」