陰気とは陰陽の属性で見ると、静けさ、抑制、粛降、涼しい、潤いといったものが当てはまります。
陰陽五行で陰に当てはまるのは水です。
水は自然界の生命の営みには不可欠なものです。
では、自然界で陰はどのような所に多いかと言うと、海辺・山林・湖畔・高山が当てはまります。
方向は北。時は日の落ちた夜。地形では低くなり凹んでいる所が陰属性となります。
このように、陰は水や水辺・日の光が当たりにくい所が陰に属します。
人体においては陰の重要な役割を担っています。
陰は水状で体内を循環して人の生命活動に必要な栄養物質を供給しているのです。
水は生命の源とも言われます。
身体の中の陰は生命の原動力である精気を蓄えていて、必要に応じて精気をコントロールしていています。
対して陽は人体の外を防衛して、外邪の侵入を制止する役割があります。
どちらも自然界・人体では重要なものでバランスよく働いているのが理想の状態です。
陰気は陽気とは正反対で“静”を主っており、身体の内側に蔵されている状態で守られているのが特徴です。
人体の陰気
陰気とは、陽気に対を成しているもので陰気と陽気はお互い関連しあって相互に働いています。
万物の生命活動では陰気と陽気はお互い蓄積された状態で相互に働いているのです。
陰・陽どちらかが欠けてしまってはバランスを崩しまう為、生命活動に支障をきたしてしまいます。
陽気は外側を表すのに対し、陰気は内側を表します。
陰気は内側にあって表にある陽気を守っているのです。
また、陰が内側にあることで陽気のコントロールができる、身体を守ることができるのです。
もし、陰気が身体の内側に無かった場合は中身が空の状態であり、生命を維持することは出来なくなってしまいます。
では、人体の陰の基本概念は何かというと、身体の内側の血液・津液といった水液です。
これらの水液の役割は身体への栄養供給をしています。
内側の生理的なコントロールをしているものでもあるので、陰気が欠けてしまうと虚となり、病気も発症しやすくなってしまうのです。
陰陽は相互に依存し合っている
大自然では陰・陽の気はどちらも同等で重要なもので、バランスよく相互に働くことで四季・1日の動きを作り出しています。
中医学で人体は大自然の原則に基づいて生命活動を維持している、と言われています。
前述の通り陰気は人体にも必要不可欠なものであり、少しでも欠けてはいけないものです。
陰気は陽気の基礎とも言われており、陰が無ければ陽は気化することができません。
反対に、陽が無ければ陰は動く動力が無くなってしまいます。
このように陰・陽はお互い依存しあいながら身体の生命を保っているのです。
水は陰気の源であり、水は陰陽が気化した基本的な物質です。
陰気は静けさを主り、内側に内蔵されて守られているものですが人体の生命活動を維持するにあたり水状で栄養物質を供給しています。
水が無いと万物は生命活動を維持していくことはできません。
そのため、中医養生では陰を養う為にたくさんの水を飲むことが度々強調されています。
秋に陰を養生する
自然界の四季において陰に属する季節は秋・冬が属します。
冬は陰が極まる時期ですが、秋は“容平の時期”と言われ陰陽のバランスが四季の中で最も整う時期です。
“容平”とはものの形が定まる時期とも言われていて、陰の養生を語る上で重要な時期です。
中医養生で秋は、1年の中で陰を養うのに最も適した季節と言われています。
秋は特徴として陰気が上昇する季節で万物の果実がなる時期です。
天地の気が引き締まって澄んできて天気も平定する時期であり、秋は安定した晴れの天気が多いですよね。
秋の養生については《黄帝内経・素問》に以下のように書かれています。
この時期にあっては、早く寝て早く起きることが、ちょうど鶏の寝起きのようであるべきだ。志を安らかにして、あれもしなければならなかった、これもしなければならなかった、と心で欲望を押し込めるようなことはせず、遂げ得なかった志を悔やむことなく、心をゆったりとさせる。精神を落ち着かせて、秋の天地の粛殺の気に身体を損なうことのないようにし、志を遂げようとしてやたらと動き回り、冷えを受けて肺の臓を冷やすことがないようにしなければならない。
小曽戸丈夫 著 「素問」より引用
秋は陰気が徐々に多くなってくる時期で、万物は冬に入る準備をする時でもあります。
そのため、秋は“粛殺“といい、冷たい風が吹いて草木を枯らせます。
これは冬に向けて万物から精が刈り取りとる刃物の役割、秋に属する“金”の役割です。
そのため、秋は人体の精にダメージを与える“粛殺”の風が吹く為、精を守ることが養生に置いて大事なの事となるのです。
秋は精を消耗する陰の風にさらされてしまう上に、余計なことで精を消耗しないように守るのが養生原則です。
秋は気を“収斂”いわゆる気を固める時期に入ります。
気を固めるのは陰の役割です。
この時に心が色んなものに反応して落ち着かないと精神が安定されずに気を固められないのです。
陰に属する安静、心を静かにしていないと、自然の原理に則り人体の気を固めて冬に入る準備ができません。
そのため、黄帝内経・中医養生では精神を安定させることが大事だと述べられているのです。
では秋に気の収斂ができなかったらどうなってしまうのか?
固まっていない気は秋の冷たい空気・風にさらされ、肺気にダメージを与えます。
冬になると風邪をひきやすい・病気になりやすい身体となってしまいます。
そのため、秋の養生とは陰が徐々に盛んになっていることを意識し、気を浪費せずに静かに・穏やかにしていることが病気にならない養生習慣となるのです。
引用・参考文献:
小曽戸丈夫 著 「素問」
《图解经典》编辑部 编著 「图解 黄帝内经 中国养生第一书」