緑茶は日本・中国で最も飲まれているお茶です。
中国、唐の時代に茶葉を蒸して飲む技術ができてから日本を始め多くの国に緑茶は伝わりました。
中国、明の時代からは更に緑茶の制作技術が上がり、今でも中国で緑茶葉は最大の生産量であり、中国では“国飲”とも呼ばれていて常飲している方が多いお茶の一種です。
緑茶の茶葉は大半が摘みたてのもの、新芽です。
茶葉にするにあたり、青みを消すために乾燥させる製造工程をしています。
緑茶は他のお茶と比較して、発酵過程が入っていないので特徴として比較的多くの栄養物質を含んでいます。
これには、ポリフェノール、カテキン、カフェイン、アミノ酸、ビタミンなどの栄養素が含まれています。
中医学では、清熱解毒といった身体の中に溜まった熱を冷ます効果があることでも知られています。
暑い日に暑熱にあたって津液が消耗して口渇してしまっている時や尿量が少ない時に利尿を促したい時に緑茶を飲むことが中医養生では勧められています。
今回は、中医学で養生としても多く飲まれている緑茶について、茶療という観点から詳しく解説をしていきたいと思います。
中医分析での緑茶の特徴
緑茶は微寒に属し、性味は甘・苦に属します。
ちなみに中国の緑茶の茶葉は葉っぱの形がそのままで、お茶を入れると比較的甘い味“甘味”がします。
それに対し、日本の緑茶は茶葉が刻まれていて“苦味”が出るように加工されています。
日本は何故中国と茶葉の加工が違うのでしょうか?
これには、日本食の特徴と歴史が関わっていています。
日本は食卓の和食は現在もですが、淡味主流であり“苦味”が比較的少ないのが特徴です。
“苦味”は陰陽五行の五味の中でも火であり、心臓に属するものです。
このような背景のもと、養生として“苦味”を日ごろの食事で摂れないと日本人の心臓が弱ってしまうという、ということでお茶で“苦味”を補う食事習慣にしたためです。
そのため、中国の緑茶と比較して日本の緑茶は茶葉が刻んだ加工となっており、渋めで苦味があるのが特徴です。
↓こちらの記事でも上記の内容について紹介しています。
緑茶の帰経は心経・肺経・肝経・胃経となります。
中国、明の時代の名医であり、本草学の集大成である《本草綱目》の作者である李時珍は緑茶が好きだったようで、《本草綱目》の本文には緑茶の分析がされています。
その内容は、
緑茶は苦味で寒に属するもので、陰中の陰であるため気を沈む・降ろす作用がある。
身体の中に火が存在した場合、その火を降ろす能力に優れている。
と語られています。
そのような背景がある中、中医学では以下3つの効能が緑茶にはあることで有名です。
- 清熱解毒:体の中に溜まっている熱を清して解毒する作用
- 生津止渇:暑熱にあたり、津液が消耗・口が乾燥した時に津液を補う作用
- 消暑利水:喉が渇いた時に飲むと暑熱を緩和し、渇きを癒す。身体の少なくなった水分を補い、利尿に作用
身体の中の“火”に作用する緑茶
中医養生では、万病と言うのは陰陽五行の“火”によって作られていると言われています。
“火”は炎上と言われている通り、上に上がる特徴を持っています。
身体の中で蓄積された多すぎる火は“火邪”となります。
“火邪”が身体の上に上がってしまうことで生じる病は多い、と中医学では言われています。
火が上に上がった症状と言うのは中医学では“上火”と呼ばれ様々な症状を引き起こします。
“上火”は具体的には口乾、頭痛、焦燥感、心慌、失眠といった症状が出て、ひどくなると鼻血、胃潰瘍にも繋がってしまいます。
心臓・肺・脾・胃に火が多くなってしまった場合、李時珍は「緑茶は火を清火する効果がある」と語っています。
つまり、暑い時期に身体に“火”が蓄積された時に緑茶を日ごろから飲んでいると“上火”状態を予防できることにもなります。
特に“上火”によって生じる眼精疲労、口乾、頭痛、心煩に対して清熱の作用が働いてくれて余分な物を体外に出す利尿作用に働いてくれます。
特に熱くなる夏には“火”が身体の中に多くなってしまうため、清熱解毒作用のある緑茶は夏に養生として飲むとよいと言われています。
夏は緑茶で養生を
夏は気候が炎・熱に偏り、陰陽五行では“火“にあたります。
猛暑日は気が炎上している夏の気の特性でもあります。
“火”は五臓六腑で心臓が該当します。
そのため、夏の猛暑の中の炎・熱の気に長い時間当たってしまうと人体に“火”が多くなってしまい、心煩・不安といった症状を引き起こし易くなってしまいます。
暑い時期に蓄積してしまう“火”のバランスを整えるために中医養生では夏は“苦味”である苦い食べ物を摂ることが勧められています。
緑茶は微寒に属し、性味が苦・甘に属します。
前述の通り食事で補えない“苦味”を緑茶によって身体に入れることが出来るので緑茶は夏の養生にはうってつけなのです。
更に夏に緑茶を飲むとよい説明を付け加えると、
消暑清熱作用があり、身体に溜まった火を清する、そして火を消すことによって頭が朦朧とした状態からはっきりさせることもできます。
最近の中医での研究では、炎天下の夏に1杯の温かい緑茶を飲むと熱の解毒、消暑作用が働いてくれて火照った身体を冷ます方向にもっていってくれることも分かってきました。
緑茶を養生で飲む上での注意点
では、夏の暑い日に緑茶を飲めば養生となると分かった所で、緑茶の飲み方の注意点の説明に入ります。
注意点は、“冷たい緑茶を飲んではいけない、温かい緑茶を飲むように”といった点です。
冷たい緑茶を飲んではいけない理由は、炎天下に身体が火照った状態で冷たい緑茶を飲んでしまうと緑茶が属する寒涼を身体に入れるだけでなく、冷たい温度により寒涼の刺激も身体に入れてしまいます。
冷たい刺激もプラスされてしまった緑茶の寒涼は飲むことで直接脾・胃に入ります。
この強すぎる寒涼の刺激は脾胃の気を損傷させてしまい、脾胃が冷えることになってしまいます。
これは、夏風邪にも繋がってしまうので注意が必要です。
とはいえ、身体が火照ってるのに冷たい緑茶を飲むのに抵抗がある方もいるかと思います。
ですが、火照った身体の時に温かい緑茶を飲むメリットは脾胃を傷めないだけでなく、汗腺である腠理を開くことで体内にある熱気を発散させる作用が働きます。
この汗腺を開いて気を発散させるのは夏に大事なことです。
緑茶の話から少し脱線をしてしまいますが、例として汗をかいてるときに冷たい冷房の風に皮膚が当たる行為は中医養生では良くないとされています。
理由は、身体の中の余分な熱気を汗腺から出して外へ発散しようとしているのに、冷房の風に当たると冷たい風が汗腺を閉じてしまい汗が出るのを止めてしまいます。
その時は涼しく感じて良いのですが、汗で熱気が発散されない分、身体の中に余分な熱が溜まった状態となってしまっています。
そして余分な熱が身体に蓄積されて“火邪”として心焦、失眠といった症状を引き起こしてしまいます。
これは暑い時に水分を摂る時にも通じていて、冷たい飲み物で身体を内側から冷やしても身体の余分な熱の発散を妨げてしまう為、逆に温かいもので熱の発散をさせた方が火の蓄積は減り“火邪”となるのを防ぐことができます。
そのため、冷たい緑茶ではなく温かい緑茶を飲むことが身体に負担を与えないだけでなく身体の余分な熱を排出する夏の養生方法となります。
緑茶を飲み過ぎてはいけない人
健康に問題のない人は飲んでも特に問題はない緑茶ですが、飲みすぎに注意が必要な体質の方がいます。
その体質とは、“寒”に体質が偏っている人です。
冷え性や胃に“寒”が溜まっている人は、緑茶の性味は寒涼性のため飲み過ぎてしまうと身体の中の冷えを増大させてしまうのです。
特に胃がもともと冷えてしまっている人に緑茶が与える寒の影響は大きく、緑茶の飲み過ぎで胃が更に冷えて消化したものを栄養吸収できないことにも繋がってしまいます。
脾胃が冷えて弱ってしまうと、消化して運化できない栄養素が身体に蓄積して“痰湿太り”も引き起こしてしまう為、身体が冷えている・冷え性がある・胃が冷えてしまっている人は多く緑茶を飲まないように注意して下さい。
参考文献:
梁浩荣 编著「茶疗养生指南」
陆羽 原著《图解经典》编辑部编绘 「图解茶经」