中医では心臓は“君主の官”と呼ばれていて、五臓六腑の中でも唯一無二の臓器です。
人の精神活動・生命活動を主宰する重要な役割があります。
今回、スポットを当てて紹介するのは前回の記事でも書かせていただいた“心臓は血脈を主る”という役割についてです。
血液が運行する血管を“血脈”と中医学は表現しています。
ご存じの通り、血脈は心臓の拍動により血液の運行がされています。
この心臓ー血脈の循環には動力である“心気”の働きがあり、“心気”は全身の状態に影響を及ぼします。
心臓の心拍は血脈の基盤の部分であり、気血を推動する“心気”を読み取ることは中医の診断手段として現在も中医師をはじめとした中医専門家に使用されています。
今回は、“心臓は血脈を主る”役割について心臓の“心気”、そして血脈について解説しながら書いていきたいと思います。
特に“心気”について分析もしてみましたので、中医学の心臓を理解する一貫として読んでいただければと思います。
血液を全身に循環させるポンプ作用
心臓は“血脈を主る”役割があり、西洋医学では心臓は循環の要であるポンプとして説明がされています。
中医学も西洋医学と同様、心臓は水を吸い上げて循環をさせるポンプに例えられて表現されています。
ポンプの水に当てはまるのは血液ですね。
心臓は昼夜休まずに全身・臓器に血液を行きわたらせて栄養・潤いを供給しているのです。
この働きが五臓六腑の調整にもなって、生命活動を正常な状態に維持しています。
心臓の正常な拍動は血液のポンプ作用として働いています。
心臓はポンプ作用で循環を推し進める役割があり、この血行の動力には心臓の気“心気”が大きく関わっています。
次の章で全身の血液の循環に働く“心気”について解説していきます。
心気について
心臓の拍動から血液を全身へ循環させるものとして“心気”があります。
“心気”は血行の動力であり、心臓に心気が十分にあり、みなぎっていれば心血の循環の働きは充足します。
要は、全身を巡る気血は満ちた足りている状態です。
血液は循環の主体であり、血液の量が全身に足りているかどうかは直接血行に影響します。
血液循環の基本的な条件は“心気が旺盛、血液が満ち、脈管がよく通じること”です。
では、更に“心気”について分析をしてみましょう。
心臓は陰陽五行の中で火に属性をする臓器です。
そのため、“心気”は陽気に属することとなります。
身体の中の火であり、陽気の役割として働いています。
陽気は推動・温煦・発するといった作用があります。
“心気”は陽気なので
- 推動:血液をポンプ作用として推動する
- 温煦:身体を温める
- 発する:血液を化生する
といった作用が当てはまります。
では、“心気”を多く占める陽を“心陽”と表現して血脈への影響について解説していきます。
“心陽”が不足していた場合、心臓の拍動に力が弱くなってしまう為、心拍が遅くなってしまいます。
血脈を推し進める力が不足するので血行が滞ってしまうのです。
そのため、“心気”が盛んで血管の流れがスムーズで心臓の拍動が規則正しい状態が理想的です。
しかし、“心陽”が多すぎて旺盛な時は中医では“心火亢盛”と表現され心拍が力強く、比較的早い脈となります。
心気は陽の要素が多いですが、陽を制約するため“心陰”も存在しています。
陰陽対立で、“心陰”は“心陽”を制約する役割にあります。
陰は心臓がポンプ作用として動かしている血液は水分なので、血液が陰に該当します。
そのため、心陰虚となり心臓にある血液量が不足状態となった場合、心陽を抑えるものが無くなるので心陽が旺盛となってしまいます。
このような状態となってしまうと、心拍は速くなりますが拍動の力が弱い状態となってしまいます。
他の症状として情緒に焦りがでたり、落ち着きが無くなります。
また、興奮、緊張・易怒的で怒り出すと止まらなくなる、といった症状が表に出てきてしまいます。
血脈を主り、華は面にあり
心臓は血脈を主りますが、中医学ではその華は面にある、と言われています。
面とは顔であり、顔は血脈が多くあるので“心気”の状態は顔色、ツヤがある・なしの光沢の変化に反映されます。
簡単に紹介すると
- 心気が盛んである時は血中の流れが順調なので面色は紅潤で光沢がある
- 心気が不足すれば血流が滞っているので面色も蒼白で光沢がなくなる
といった変化がみられます。
次に血脈についてですが、中医で体質診断の手段に使われている脈診について触れさせてもらいます。
中医で体質を判断する際に、脈診は1つの手段として使われています。
脈とは前述の通り、心臓の拍動によって作り出されています。
私自身、中国で中医修行中は脈で全身の状態を診るように練習をしてきましたが、脈診を通して心臓の拍動を聞いていくと、その人の性格・情緒も読み取ることができます。
その背景には心臓に蔵されている“神”が精神・意識・思惟を統轄していることが、脈として現れているのではないかと思っています。
中医では脈を通して心臓の状態、全身・臓腑の気血の状態を推測できなくてはなりません。
脈診は非常に複雑であり、“沈・浮・細・弦・遅・弱・渋・結”などといった状態を細かく読み取って判断をしていくのです。
このように血脈は中医の体質診断の手段に応用されており、心臓の拍動は全身に影響を及ぼす重要な働きをしています。
唯一無二の“君主の官”である心臓、一生かけて大切にしていきたいですね。
参考文献:
严灿 著 「明明白白 学中医① 医道医理篇」
韓晶岩 著「新中医基礎理論」