心臓は中医学の中では“君主の官”と言われています。
意味としては心臓は五臓六腑の中でも君主に相当しているということです。
心臓は西洋医学だと血液のポンプの役割があり、全身の循環に非常に重要な役割を担っています。
中医学で心臓とは循環のポンプ作用以外にも重要な役割があります。
それは、心臓は心を主宰するものという点です。
心臓の中にある“神”というものが関わってきているのですが、
心臓は心の意識、思考、行動、感情を主宰する、いわゆるとりまとめる役割があります。
今回は中医学の“神”というものに触れながら、中医学の心臓について解説していきたいと思います。
中医学 心臓の神
中医学基礎理論によると、“神”とはこのように定義されています。
- 広義の神:全人体の生命活動
- 狭義の神:人の精神活動と思惟活動
中医学で心臓を語る場合ですと、狭義の神である精神・思惟活動を指します。
ちなみに心臓にある“神”というものは元々は道教の言葉です。
道教では霊魂を“元神”と表現をしていて、それが中医学で“神”となったようです。
中国の中医学の本を漁ってみても、はっきりとは書かれていませんが心臓にある“神”は霊魂のようなものであるというニュアンスで書かれており、意識体と捉えていただければ良いと思います。
そう捉えると「胸が痛い」「心臓がドキドキする」といった日本語の表現から意識体・心といったものは心臓にあることを表現しているようです。
心臓と大脳
私たちに馴染みのある西洋医学だと、意識・思考・行動・感情と言ったものは大脳の働きだとされています。
実際、脳には前頭葉・側頭葉・後頭葉に分かれていてそれぞれの感覚野が分かれています。
そのため、精神活動・思惟活動といったものは大脳の働きだと西洋医学では割当たっています。
中医学だと精神活動・思惟活動は五臓が主ることとなっていて、その中心は心臓となっているのが西洋医学と異なる点です。
これには大脳ー心臓の関連する働きが関わってきています。
冒頭でもお伝えした通り、心臓は血液を循環させるポンプの役割があります。
この血液を循環する役割は中医学で“血脈を主る”と言われています。
血液を脈管中に運行させるのは心気が動力として血行に働いています。
この“血脈を主る”役割は血液が脳を養う働きにも繋がっており、血液が脳に循環することによって栄養を行き渡らせることができるのです。
心気が充分にあれば、脳を養うことができるので脳がはっきりするため頭脳・思考は明晰となります。
しかし、心気不足であれば脳を血液で充分に養えないため、頭がぼーっとしたり、健忘、不安になったり、夢を多く見たりといった症状がでてしまいます。
つまり、“君主の官”である心臓を養うということは脳をコントロールすること、そして精神・心をコントロールすることにも繋がってくるのです。
心は神明を主る
“心は神明を主る”とは精神・心理活動面で、心臓は精神・意識・思惟など精神・心理活動を整理・コントロールする働きがあります。
黄帝内帝をはじめとした古代の中医師達は《脳は神の腑》と表現しており、脳に関しては《脳は髄の海》と文献には書かれています。
《髄の海》とは脳は脳髄が集まって形成されたものなので“海”という風に例えられています。
髄はエネルギー源である精によって働きが保たれています。
では、中医学で“奇恒の腑“に分類されている脳を何がコントロールしているのか?
髄の海である脳をコントロールするのは心臓の“神”だとされています。
明の時代の中医学者の張景岳は「髄海である脳を操るのは上丹田である“神”である」とも言っています。
この心臓の“神”で脳をコントロールするってどういうこと!?
と思われますが、これについては仏教の教えで詳しく述べられています。
私たちが生きていく上で心をコントロールすることというのは非常に大事な事です。
脳と言うのは外界で起こったことを反応するように出来ています。
この脳の反応をコントロールするのが“神”ということになります。
毎回起きた出来事全てに反応して怒ったり、悲しんだり、落ち込んでしまっては非常に疲れてしまいますよね。
自分の感情に振り回されて「自分に疲れた」なんていう時もありますが、この心臓ー脳の反応をコントロールは仏教で修行と言われているぐらい非常に難しいことなのです。
ドンと構えられるように、動じない自分を作るために「心の安全運転者になろう」なんてブッダの言葉では言われていますが、簡単にはいかないのが人生です。
自分の反応をコントロールして心を常に穏やかに、楽しくすることは心臓の“神”という意識体で脳をコントロールする修行だったりします。
自分の心と身体を健康にするには、このような君主である心臓が脳をコントロールすることにも関わっているのです。
中医学とは道教・仏教の教えにも繋がっていて奥深いですね。
この“神”について道教・仏教の視点から分析した記事も今後書いていきたいと思います。
参考文献:
韓晶岩 著「新中医基礎理論」
严灿 著 「明明白白 学中医① 医道医理篇」