子午流注法

子午流注法 脾経 巳の時間帯(9時~11時)の養生

朝の9時~11時の時間帯は脾の経絡の気が最も旺盛になる時間帯です。

脾臓は学では運化作用(飲食物から得た栄養物質を気・血・水に作り変える作用)を主り、血管の血液が漏れないようにする統血作用、そして食べた物を胃で消化した後、脾で吸収・排泄の調節をするため人体の血液を統率する役割があります。

この通り中医学では役割がたくさんある脾臓ですが、五臓六腑の位置関係でも中心にあることが特徴の1つです。

脾臓は五臓六腑の中心位置にありますが、十二時辰でも脾臓は中心の位置にあることが今回解説する養生のキーワードです。

そのため、子午流注法でも脾気が割当たっている時間帯“巳”は陽気が多く占める時で養生では身体の代謝にも関わる重要なポジションになります。

では、脾臓は五臓六腑、子午流注法でも中心にあることを意識した上で巳の時間帯の養生について解説していきます。

巳の時間帯

巳の時間帯の巳は“起来”という意味があり、中国伝統文化では「巳の到来は自然界の万物の気が盛長となる」と言われています。

人の身体も自然界と同様の動きをしていますので、花が咲き始めるように気が向上していくイメージしていただくと良いと思います。

図で巳の位置を見ますと陽が極まる前であり、陽を占める割合が多いのが分かります。

巳の時間帯は自然界の陽気が多く占める時間帯です。

ここで陰陽五行の動きを見ていきますと巳の時間帯の盛盛の陽であり、これは五行のに割当たることとなります。

五行の相生の流れで火は土を作ります

この火生土の相生の流れは巳の時間帯の脾臓の運化作用に深く関わってきます。

脾臓は巳の時間帯の陽気を利用して食べた物の水谷の運化気血の化成を行うのです。

前回、辰の時間帯(7~9時)に朝食を食べるのは大事、という解説をさせていただきました。

朝に食べた物は辰・巳の時間帯に胃・脾がしっかり働いて消化・運化を行ってくれることで1日の活動のエネルギーを身体に回す循環を作ることができるからです。

巳の時間帯は活動に適した時間

巳の時間帯は陽の気が多い時の為、活動をするのに適した時間帯だと言われています。

運動・ダイエットに適した時間帯であり、この時間帯に運動をすることで脾臓の排毒、いわゆるデトックスができる時でもあります。

中国で中医理療士に教えていただいたのですが、高齢者の養生は朝は太極拳などゆっくりした運動で朝の新鮮な陰陽の気を身体に取り入れ、巳の9時~11時はウォーキングやダンスなど活発に運動をするのが一般的な習慣となっているようです。

これは子午流注法の養生習慣で、元気でいられるように大半の高齢者が実践されています。

巳の時間帯は高齢者が身体を鍛えるのに最も適した時間帯とも養生では言われいます。

そのためか、中国の9時~11時の公園は高齢者が集まってダンスや武術太極拳、ウォーキング、バドミントンをしている方々が多くいました。

朝の公園に行くと、皆さんすごく元気で声がはつらつとしてて、迫力負けしそうな勢いでした。

午前中の中国の公園風景。おばちゃんたちが集まって踊っています。

現代人は1日中座って勉強、事務作業やパソコン作業をする方が多いです。

ずっと座りっぱなしの作業だと日に日に疲れも溜まってきます。

それに、身体を動かしていないので腹筋が弛んで柔らかくなっている方も多いかと思います。

もし、体型が気になっている方は巳の時間帯は身体を動かして何か活動をするのに適した時ですので、ちょっとしたことでも動いてみると良いです。

例えば、整理整頓をする、飲み物を取りに行く、資料を取りに行くなど簡単なことで構いません。

日常生活の小さなことですが、食べた物が身体に蓄積されて太ってしまっている場合、少しでもこの時間帯に動くことを意識してみて下さい。

身体を動かして脾の動きを活発にした方が運化作用が高まり代謝が良くなることでデトックスに繋げられるからです。

習慣をつければ水湿、食積の停滞を防ぐことができて、お腹から太るのを防いでくれます。

また、この時間帯に姿勢を良くすることも意識してください

前かがみ姿勢では内臓の圧迫があるため、脾臓も圧迫されて働きが鈍ってしまうためです。

それに、姿勢が曲がっているとお腹が圧迫されて気の流れも悪くなるので呼吸も浅くなります。

気の流れが悪くなると考え事や悩む方向にもいきやすいので姿勢を正して深呼吸をすると養生には良いです。

五臓六腑の働きを良くするためにも姿勢を良くすることを普段から意識してみて下さい。

右図のような前かがみ姿勢ではなく、左図のような姿勢を意識してください。

巳の時間帯は脳が最も働く時

活動・運動の他に巳の時間帯は脳が最も力を発揮する時間帯でもあります。

中医では、巳の時間帯は集中力のピークが来るため1日で最初の脳の黄金時間とも言われています。

仕事・学業でも効率よく作業が勧められる最高の時間帯です。

この時間帯に脳を働かせて作業効率をアップさせるためにも、朝ごはんは7時~9時の辰の時間帯にしっかり食べて、巳の9時~11時は脾臓の栄養吸収にあてて代謝を良くするリズムを作ってみて下さい。

そうすると、9時~11時に脳が活発に働いてくれます。

巳の時間帯の落とし穴

運動・活動するのに適して、脳も力を発揮してくれる巳の時間帯ですが、この時間帯に養生ではハマってはいけないことがあります。

巳の時間帯にに悩む、考えすぎてしまう、思いすぎてしまうことです。

なぜ、この巳の時間帯に考え事をしたり、悩んだりすることはしない方が良いかというと、は感情、五情の属性でいうと“思“にあたるため、考えすぎ、悩みすぎてしまうとマイナスの方向にハマってしまう傾向があるからです。

五情の“思”は土に属し、脾臓に影響をします。

もし、巳の時間帯に1人で思い悩んで気持ちが落ち込んでしまってそれに囚われてしまうと、と集中力、頭を使う作業に影響をきたします。

巳の時は勉強・仕事で集中力が発揮される時間帯ですが、1つの心配事・悩みに囚われてしまいやすい時間帯でもあるのです。

この心配事・悩みに囚われてしまうと、身体の気の流れは滞りやすくなりなり、気滞・気鬱と発展してしまいます。

そうなると、血液の運行にも影響が出てしまい、自分で病を引き起こしてしまうことにも繋がります。

中医養生では、この時間帯は静かにして休む時間ではなく、なるべく心配事・悩み事を忘れる・頭の中から流すように何か作業・活動をすることを勧めています。

くれぐれも、巳の時に考え事をして落ち込んでしまうと気の流れが不順となってしまい、“気結”状態になりやすいため、病気を発生させる要因を作らないように作業・活動をする習慣を作ってみて下さい。

気を付けてほしいこと

最後に巳の時間帯に気をつけてほしいことを2点お伝えします。

1,脾臓を冷やさない

巳の時間帯の脾臓の働きは前述の通り、この時間帯の陽気を利用して火生土の働きで脾の運化・気血の生成を行います。

しかし、脾臓が冷えた状態では働きが充分に発揮されません。

特に冬は身体も内臓も冷えやすい状態にあるので、腹巻・冷えている部分にカイロを当てるなどして温めるように意識してください。

また、脾臓に湿気が溜まっている状態でも同様に脾臓の働きが充分でないので、特に梅雨時期は適度に運動をして汗をかいて脾臓の湿気を体外に出すようにして下さい。

内臓に溜まっている湿気は汗ばむ程度の運動で体外に出すことができます。

2,白湯などで水分を多くとる

この時間帯は胃で消化したものを、脾臓で運化気血・津液にして、脾臓より上の心肺に送ったのち全身に循環させる動き、そして身体にとって余分な老廃物を脾臓は腸と膀胱に下降させ、やがて体外へ排出される流れを作ります。

少し難しい脾臓を中心とした代謝の説明となってしまいましたが、巳の時間帯の陽の力を利用して脾を中心にこのような循環が身体の中で起こっています。

そのため、中医養生では脾臓の代謝が活発となる巳の時間帯は水分をなるべく多く摂るように言われています。

この時に、冷たい水ではなく、必ず白湯温かいお茶を多めに飲むようにして脾臓の動きを活発にさせるように心がけて下さい。

また、巳の時間帯に燥熱性で辛みのある刺激のある料理は食べないようにして下さい。

刺激が強い為、胃と脾がダメージを負ってしまうためです。

この2点に気をつけて、巳の時間帯に脾臓を中心とした代謝が作られるように養生を意識してみて下さい。

ABOUT ME
中医セラピスト・伊藤
中医セラピスト・伊藤
作業療法士として脳外科のリハビリテーションに携わった後、中国に渡り中西医結合医療現場にて渡航医療のリハビリテーションに携わってきました。この経験をきっかけに中医科に興味を持ち、 広州市の邦里国際医療団に所属。中医師助手として老中医師から中医基礎・臨床を教わってきました。 5年間中国で経験を積ませてもらい、現在は栃木県宇都宮市で中医関連の仕事をしています。 本場中国で教わってきた脈診、陰陽五行理論を使った経絡治療を得意としています。 ブログは中国でお世話になった方々の支援を得ながら書かせていただいています。