中医解説

中医学の“神”欲神について

中医学で整体観念を語る上で“神”というのは欠かせないものです。

中国の中医分野の心理学・精神医学では“神”についての分析が中医専門家の間で今も成されています。

中医の“神”とは広義の意味で生命活動、そして狭義の意味では精神・心理活動の高次のものをコントロールするもの、とされています。

前回は「元神」「识神」2つの“神”の解説記事を書かせいただきました。

「元神」は脳にあり、心臓にある「识神」が心気でコントロールするものであり、仏教では外界の事柄に最初に反応する「识神」の働きを少なくすることで健康になれて無の境地に近づくことができる、といった内容でした。

この中医の“神”ですが「元神」「识神」の他にもう1つの“神”「欲神」というものがあり、狭義の“神”は「元神」「识神」「欲神」“三神”と中医学では呼ばれています。

「元神」は脳に蔵されているもので“不神”、書籍にもよりますが霊魂・精神といったものがあたります。

「识神」は心臓に蔵されているのもで“思慮神”、外界の事に反応して脳に心気を送ってコントロールするものです。

では、「欲神」は何かと言うと、字の通り人の“欲”の部類に関するものです。

本能的な欲求、心理活動、食欲・睡眠欲・色欲といった人の三大欲求が当てはまります。

「欲神」「识神」「元神」ほど中国で明確に書かれている記事・書籍はありませんが私の分かる範囲ではありますが、今回書かせていただきたいと思います。

「欲神」とは

「欲神」は本能的な心理活動、食欲・睡眠欲・色欲といった三大欲求、そして人の欲望と言われています。

“神”の中でも生命本能の駆動状態を示すものでもあり、目的に対して行動を起こす前の段階、いわゆる生理的・心理的に駆られる“欲”の駆動ことを指します。

例を挙げると、お腹が空いたので食べたいといった欲求、また本能が危険を感知して避けるために動く、といった危険回避のものまであります。

中医理論で「欲神」とは“相火”と分類され肝と腎に所属するものに分類されています。

「欲神」がどこに蔵されているのか五臓六腑は不明ですが、人が生きる上での欲求が関わっていて、とても強い信号を脳に送るものと言われています。

これは「欲神」からの強い信号の心気は脳にある「元神」つまり霊魂・精神を狂わすことができる、とも表現がされています。

そのため、人の欲求が行き過ぎてしまうと自分を蝕む病にも発展してしまいます。

あれが欲しい、これが欲しいも“欲”

「欲神」は「识神」と「元神」の間に存在

諸説ありますが「欲神」は外界に反応をする「识神」そして霊魂・精神に値する「元神」の間に存在しているようです。

「欲神」は古文書でも詳しい記述は少ないようですが、食欲・睡眠欲・色欲の三大欲求を指しますが人の内なる欲望、そして衝動も含みます。

この強い「欲神」の発生は「元神」にも常に関わってくるものです。

「欲神」“欲”という字にもある通り、個人や人種の生存と繁栄を維持するために生じてしまうものです。

これは欲求によって生命活動を営む本質を反映しているのものですが、「欲神」「识神」「元神」の間で複雑に錯綜をしています。

「欲神」は外界に反応する心臓の「识神」によって誘発されるものです。

そのため「欲神」“欲”という生命活動にも関わるもののため、強い発生力を持って「元神」(脳)に働きかけます。

欲望・衝動が心気で「元神」(脳)に到達することで表の表現(言葉・行動・態度)として現れるのです。

この強い“欲”の心気の信号は強すぎれば「元神」に対し、時に生命の調節を危険にさらすことさえあります。

金銭欲も大事ですが気を付けてないと…

すぐに反応しないで冷静にコントロールすることが大事

ここからは私の解釈となってしまいますが、欲望も含む「欲神」は外界に反応する「识神」とともに強い衝動を心気を通して信号を脳に送ることで、霊魂の「元神」を妨害することができます。

これは仏教では“我”というものではないかと私は解釈しています。

中医養生では調身、調息、調心することで無の境地に入ることで、脳にある「元神」を最もコントロールできる状態が作られます。

「识神」「欲神」からの信号、つまり雑念・欲望が強いと「元神」つまり本来備わっている人の精神・魂というものが力を発揮することができないことになります。

そのため仏教では心の調整・雑念を排除する・無になるといった心のコントロールが必要、と言っているのではないかと思います。

これは古代の中医養生でも同様のことが言われています。

人は「欲神」「识神」を適度に止めることが大事で、日ごろから「元神」に至るまでに心気をコントロールすることが重要と捉えていたようです。

歴代の中医養生家は「心を清らかにして欲を出さない」「少ない欲で満足をするようにする」「心を養うようにする」と養生指導を伝えていった記述があります。

これが自分の本来の姿・霊魂である「元神」を守る上で、「欲神」「识神」がなるべく強く反応しないようにコントロールすることが養生では大事な習慣なのではないかと思います。

欲というのは生きる上では非常に重要となってくるものです。

意欲によって心にエンジンをかけて人は行動を起こすことができます。

しかし、行き過ぎた欲望は自分の心を蝕むことになる、ということも頭に置いておいた方が良いと思います。

参考文献:

严灿 著 「明明白白 学中医① 医道医理篇」

ABOUT ME
中医セラピスト・伊藤
中医セラピスト・伊藤
作業療法士として脳外科のリハビリテーションに携わった後、中国に渡り中西医結合医療現場にて渡航医療のリハビリテーションに携わってきました。この経験をきっかけに中医科に興味を持ち、 広州市の邦里国際医療団に所属。中医師助手として老中医師から中医基礎・臨床を教わってきました。 5年間中国で経験を積ませてもらい、現在は栃木県宇都宮市で中医関連の仕事をしています。 本場中国で教わってきた脈診、陰陽五行理論を使った経絡治療を得意としています。 ブログは中国でお世話になった方々の支援を得ながら書かせていただいています。